
私は、HSPだ。
HSP. Highly Sensitive Person.
つまり、生まれつき感受性が非常に高く、周りの刺激に対して敏感な気質を持つ人のことをいう。
母から武田友紀先生の『繊細さんの本』を手渡されたのは、外に出ることが怖くなり始めた頃だった。ページをめくるたび、そこに書かれた言葉が、まるで私自身のことのように感じた。
自分と他人の間に境界線を引けず、他人の怒りや苛立ち、失望や落胆といった棘を、肌に刺さるようにそのまま受け止めてしまう。言葉にならない空気にさえ影響されてしまう。今までの人生を振り返って、思い当たる節はいくつもあった。
その本の中に、「繊細さんが生きやすくなる方法の一つ」として紹介されていたのが、「外界と自分との間にガードを作るために、めがねをかける」という方法だった。実際、HSPの当事者である著者自身も、めがねをかけていた。
だから、外に出るのが怖くなった私に、母は「めがねを買いに行こう」と声をかけてくれたのだ。
視力はよかったので、買うのは度数のない、伊達めがねだった。
めがねショップの店頭に並ぶたくさんのフレームを前に、私は一つひとつを手に取ってはかけてみた。
鏡の中の自分は、思っていたほど「別の誰か」ではなかった。めがねをかけた瞬間、今までと違う自分になれると思っていたのに、そこにいたのは、ただめがねをかけた「私」だった。
それでも、時間をかけて選んだ一つを、私は家に持ち帰った。価格は7000円。会計の時に表示された金額が、なぜか心の奥に重く沈んでいた。
7000円。それが、何か嫌なことも頑張る、その代償として支払われたような気がしていたのだ。
残念ながら、めがねをかけることで、一人で外へ出られるようになったわけでもなく、相変わらず私は視線恐怖に怯え続けていた。
それでも、確かに違っていた。
めがねがある世界では、大きすぎる世界から身を守る、薄いバリアを手に入れた気分だった。めがねをかけずに外出すると、まるで何も身にまとわず裸で歩いているような、不安な気持ちになった。
視線恐怖に侵されていた数年間、めがねは私の相棒になった。