
マリンバを初めて習った翌日、前から予約していた精神科へ行った。もちろん、母も一緒に。
もしそこで薬をもらえたら、自分が「病人」だと認めてもらえるような気がしていた。だから、たとえ飲めない錠剤が出されたとしても、頑張って飲もうと思っていた。
初めて訪れた精神科は、駅前のビルの最上階にあった。透明なガラス扉の向こうに受付があり、待合室には背もたれの高い椅子が患者同士の距離を保つように並んでいた。壁にかかったテレビには、どこか外国の海の中の映像が、静かに流れていた。まるで、「精神科」という重さを、必死に隠しているように。
問診票を書き終えると、診察室へ通された。そこは相談室のようで、今まで通ってきたどの病院とも違う雰囲気だった。
机一つ挟んで、医師が座っている。その向かいに、私たちも座る。
診察は淡々と進んだ。緊張しすぎて、内容はよく覚えていない。私は一言も話せず、先生の顔を見ることもできなかった。
ただ、こんな病院、嫌だと思った。「この病院が」というわけじゃない。病院にこれから通うことが、嫌だった。
行ったら、病名を教えてもらえるかもしれない。私にも、逃げていい理由を提示してくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて来ていたことにその時気が付いた。でも、目の前の医師はパソコンに向かって何かを打ち込み続けているだけで、そこに何を記入しているのかもわからない。私に「許し」を与えてくれる様子はなさそうだった。だから嫌になったのだ。
最後に、薬を処方してもらった。「錠剤が飲めない子もいるんですよ」という先生の声を聞いて、母が「そうなんです!」と頷いていた。そうか、錠剤が飲めなかったのは、私のせいじゃなかったのかとぼんやりと思った。
私の胸の内の抵抗も空しく、また一週間後に予約を入れて、病院を後にした。
その晩飲んだシロップの薬は気持ち悪いほど甘くて、苦くて、吐き出したいほどだった。
薬との闘いが、この日から始まった。