
世間は新型コロナウイルスの話題で持ち切りだった。
母とドラッグストアに買い物に行くと、マスクの棚が空っぽになっていた。ニュースで画面越しに見ていた現状を目の当たりにしながら、「本当に売り切れてるんだねー」と呑気に会話をした。
コロナウイルスは、私たちの生活に徐々に介入してきた。
休校になることや、不要不急の外出を控えることは、当時不登校児で、そして半分引きこもりのようだった私には大して影響を及ぼさなかった。
他にも、マスクをしないと外に出られないとか、エレベーターは4人までしか乗れないとか、様々な制限がかかる中。
私が一番大変だったのは、検温だった。
お店や病院に入るたび、検温の壁が立ちはだかった。一人ずつ、額や手首で体温を測定してからじゃないと公共の施設には入れなかった。
熱がないことは体感ですぐにわかる。私が怖がっていたのは「熱があったらどうしよう……」というものではなかった。ただ、不安障害の私にとって、体の一部を他人に差し出さなければいけないことが、怖くてたまらなかった。
検温の義務は、私が高校1年生になるまで続いた。登校する時、毎日昇降口に何人かの先生が立っていて、手首を出して検温をしてもらわないと、学校に入れなかった。
コロナが明けて、あの非日常が過去になって、「大変だった」と思うことはたくさんある。その中でもやっぱり、私にとっては検温の壁が一番大きかったように思う。