
実は、夏休みから私が声を取り戻し始めたのは、ある目的があるからだった。
ある目的。それはつまり、2年生の1月に控えている、修学旅行だ。
3泊4日の修学旅行までに、なるべく話せるように、笑えるように、動けるようになりたい。ごはんだって、みんなと一緒に食べられるようになりたい。
そのため2年生の夏休みから、「修学旅行復活計画」を勝手に始動させた。
最初の「話せない」は、とりあえず突破した。けれどだからと言って、饒舌に誰でも話せるわけじゃない。カウンセラーの矢代先生と話した後、担任の菊池先生とも話して、夢愛ちゃんと春乃ちゃんとも話した。「話す」と言っても相手の質問に一言応えるくらいだったが、そうやって徐々に話せる人を増やしていった。私が声を取り戻したのは、周りに声を強要する人が一人もいなかったからだ。矛盾しているようだけれど、それに気付いて初めて、話せない自分を認めてもらえたような気がした。
笑うことは、だんだんとできるようになっていた。文化祭でクラスメイトの響ちゃんと2人で撮った写真は、驚くことに微かに笑えていた。きっと、響ちゃんが持っている太陽のような明るさのおかげだろう。でもやっぱり、集合写真や、先生と撮る写真は、「緘黙顔」の私がそこにいた。
動けるようには、ならなかった。少しずつ話せるようにはなったのに、体だけがいつまでも場面緘黙症に縛られていた。
そして、ごはん。会食恐怖症の私は、数か月ぶりに教室でお弁当を食べてみることにした。すべては、修学旅行のために。初めて教室でお弁当を広げた時は、響ちゃんに「こころちゃん。今日からここで食べるの?」と訊かれた。私は「うん」と答えたが、初日はほとんど食べられなかった。
響ちゃんに、お昼を誘ってもらったこともあった。机を向かい合わせて、2人でお弁当を食べる。誰かと向かい合いながらごはんを食べることに恐怖を感じながらも、断ることもまた怖かった。せっかくのチャンスなのだ。これを無駄にしたらいけない。そう思って私は、震えながら彼女との会食に挑戦した。
そうやって、「修学旅行復活計画」はゆっくりと、でも確実に進んでいった。