
高校3年生の6月、入学してから初めて、マスクを外して登校してみることにした。
本当は、修学旅行や体験学習の翌日から、マスクを外して登校したかった。でも生憎、そうした宿泊行事の後は風邪が蔓延し、マスクの着用を義務付けられることが多かったのだ。
私がマスクを着け始めたのは、小学4年生の頃からだった。暑い夏でも、写真を撮られる林間学校でも、マスクがないと不安だった。学年の中で一人だけ、風邪を引いているわけでもないのにマスクをしていた私は悪目立ちしていたが、それがわかっていても手放すことができなかった。マスクは、私の中身と外の世界とを分断する、大事な壁だったのだ。
だからこそ、コロナ禍前からマスクをして、安心感を得てきた私が「素顔デビュー」するのには、相当な勇気が必要だった。
それでもマスクを外したかったのは、息がしづらかったからとか、耳が痛かったからとか、そういうことじゃない。
マスクと一緒に、何か捨てられそうな気がしたからだ。何となく、本当の自分が出てきやすくなるような気がした。
ありったけの勇気を捧げて果たした「素顔デビュー」初日は、拍子抜けするほど淡々と過ぎて行った。誰かに、私の素顔を指摘されることはなかった。そのことが、心地よかった。
声が戻り、笑顔が戻り、そして私には、素顔が戻った。