
うつ病を発症してすぐ、急性期の数か月は記憶が飛んでいる。それは、私の中である種の防御反応が働いたようだった。きっとあの苦しみでしかない時間をずっと覚えていたら生きていくことができないだろう。
今回は、そんなうつ病急性期の一日を紹介する。
まず、朝は早朝覚醒するか、お昼過ぎまで寝ているか、日によってバラバラだった。私にはなぜか強力な睡眠薬が全く効かず、眠りをもたらしてくれる薬が見つかるまでは、夜一睡もできない日だってあった。でも副作用に眠気がある抗うつ薬を飲むと、死んだように何時間も眠っていた。寝ている間はいいものの、起きた瞬間からとんでもない倦怠感で起き上がることもできない。
何とかリビングに降りて来て、ソファで横になる。ごはんもろくに食べられず、日が暮れるまでトイレに行く以外ソファからは動けなかった。酷い時は、トイレまでも這っていく。頭に岩のようなヘルメットを被せられたような感覚だった。
いつになっても気を抜くことができなかった。「あ、大丈夫かも」と思った次の瞬間にはもう「あー」と叫びながら頭を抱える。発作的なうつの波が毎日容赦なく私を襲った。私はその波に必死に抗うように、声を上げ続けた。
一日中唸って、苦しんでいたので、母はひたすら私を寝かせることばかり考えていたらしい。薬を何錠も飲んで、時間をやり過ごすことしかできなかった。そうしないと生き延びることができなかったのだ。
文字も読めない。テレビも観られない。音楽も聴けない。言葉の泉も涸れた。大好きだった本も読めない、ドラマも観られない、曲も聴けない、文章も書けない。それを悲しんでいる余裕もなかった。
お風呂にも入れない。歯磨きもできない。
うつ病を治そうと買い集めた本の中には、「朝の散歩がいい」と書いてあったが、何を言っているのだろうと思った。起き上がることもできないのに、着替えて散歩だなんて。
私は、他人と意思疎通をすることさえ、できなくなっていた。誰の声も届かない、暗いトンネルの中にいるようだった。
人間として最低限の生活もままならなかったのだ。