
入学式の翌日から、オリエンテーションが始まった。一日中新生活の手ほどきを受ける。ひたすら覚えようとするけれど、疲労に比例して何も頭に入って来なくなる。ダメだ、ダメだ。メモを取れ。私は容赦なく進んでいくスライドに書いてある文字を必死でメモ帳に書き写した。途中から、壇上にいる先生が何を言っているのか、自分が何を書いているのかすらわからなくなってくる。でも、手を止めることは許されなかった。後から苦労するのは自分だとわかっていたからだ。
オリエンテーションを終え、疲労困憊の私は、ふらふらと助けを求めるように保健室に足を運んだ。気を抜けば倒れてしまいそうだった。そんな自分を奮い立たせて、砂漠の中でオアシスに向かうように一縷の希望だけを抱きしめて歩き続けた。あそこに着いたら、助けてもらえる。
保健室の扉をノックする。でも、返事が返って来る気配はない。その時になってようやく、扉に貼られた紙に目がついた。
『健康診断のため、不在にしています。御用のある方はこちらまでご連絡ください』
その下に電話番号が記載されている。
そうか。今日は上級生の健康診断日だ。だから保健室に誰もいないんだ。
私はスマホを取り出して、書いてある番号に電話をかけてみた。けれど、いつまで経ってもコール音は鳴り止む気配がない。やがて自動音声に切り替わる。心が折れかけたところで、何とかもう一度電話をかけ直した。偶然だ。きっと、タイミングが悪かっただけ。助けは来る。
けれど、何度かけ直しても最終的には感情のない自動音声に繋がるだけだった。
誰もいない保健室の前で、一人立ち尽くす。
助けを求めたのに、私の手は誰も取ってくれなかった。わかっていた。拒絶されたわけではないし、健康診断なら忙しくても仕方ない。
でも、新学期の孤独感が一層強まってしまった。
――ここは、私の居場所じゃない。
高校に、戻りたかった。