
F大学の保健室には、常にゆったりとしたオルゴールが流れている。歌詞がないので印象がだいぶ違うけれど、よく耳を澄ませるとサザンオールスターズだったり、MISIAだったりした。
「こころさん、ちょっと開けるよ」
ベッドの外から、保健室の先生の声がする。
「はい」
「大丈夫?」
「……はい。あ、もう戻らないと」
授業を1コマ終えた私は、保健室で休ませてもらっていた。昼食も食べずに仮眠を取ろうとするけれど、学校では常に緊張状態にあるから眠れない。そうこうしているうちに、お昼休みが終わる時間が来てしまった。
「3限出る?」
「はい」
顔色が悪い私を見た保健室の先生は心配そうに言った。
「こころさん、頑張ってるね」
この後も授業がある。高校の時とは違う。出席できなかったら、すべて自己責任なのだ。それに多大なプレッシャーを感じていた。戻らないと、戻らないと。
疲労に不安が重なって酷い顔をしていた自覚はあった。それなのに先生の一言でさらに顔が歪んでいく。
ダメだ、ダメだ。耐えろ。大学生にまでなって人前で泣くなんて。
そう思うのに、もう自分では歯止めが利かなかった。みるみるうちに目に涙が溜まって、自然と流れて行ってしまう。
メイクが崩れることも、目が腫れることも気にせず、気にする余裕もなく、私は泣いた。
保健室に、涙が落ちた。
もう無理だ。
ふと、中学生の頃のことを思い出した。何も楽しくなかった授業に部活に学校行事。もう無理だと心のどこかで悟りながら、気付かないふりをして坂道を自転車で漕ぎ続けたみたいだった。止まったらいけない。止まったらいけない。一度止まってしまったら、もう動けないことを知っていたから。でも、遅かれ早かれ、挫折していたのは明白だ。この世界で生きていくことなんてできない。あの時と同じような感覚が、胸を掠めた。
だからといって、簡単に辞める選択ができるわけがなかった。指定校推薦で進学させてもらった者として、大学を卒業するまではH学園の代表なのだ。私の心が折れたところで、孤独に押し潰されそうになったところで、模範生でいなければいけない。そうじゃないと、高校に迷惑がかかる。
生きていける道が、どこにもない気がした。
どうすればいいのか、もうわからなかった。