
『何がそんなに苦しいの』
高校時代の担任である菊池先生と連絡を取っていた時、つい苦しみを漏らしてしまった。大学が苦しいと嘆く私に、先生はそう訊いた。
一日中、「苦しい、苦しい」と思っていた。それは偽りのない事実だ。でも、いざ「何が」と問われると、答えに詰まった。
毎日の電車、友達のいない環境、当てられる授業、90分間座り続けること。そのすべてが苦しかった。でも、それはきっと、誰にとっても同じだ。
じゃあ、この程度じゃダメなのか。相手を納得させられる理由がなければ、「苦しい」と言ってはいけないのだろうか。
「死にたいって、思います」
追い詰められて、私はついそう呟いた。
返ってきたのは、一言だけだった。
『これ、会えなくなるからやめてね』
死んだら悲しむ人がたくさんいるよ。そんなことでへこたれてないでさ、もっと頑張りなよ。
そんな言葉が返って来るものだとばかり思っていた。
『会えなくなるからやめてね』
それは、あまりにシンプルで、そして何より優しい言葉だった。
それが嬉しくて、でもやっぱり苦しみは変わらなくて、涙が止まらなかった。しばらくの間、その言葉がずっと心に残り続けていた。
間違いなく、先生のその言葉は私がこの世にいることを許してくれるものだった。会えなくなるから死なないで欲しいと言ってくれる人が一人でもいるだけで、もう少し生きてみようかと思えるのだった。