
高校時代の友人、響ちゃんに「麻辣湯食べに行こう」と誘われたのは、生きることに限界を感じていた頃だった。生きていく気力もなかった私だったけれど、久々の友達からの誘いに少し心が躍った。響ちゃんとだったら遊べるかもしれないと思い、自分を奮い立たせて行ってみることにした。
私はデートに向かう乙女のようにワンピースを着て、ヒールを履いた。ヒールに杖は不似合いだったけれど、とびっきりのおしゃれをしたい気分だったのだ。
日本中で麻辣湯ブームが起きていたその頃、訪れたお店は案の定混んでいた。真夏の太陽の下、長い行列の最後尾に並ぶ。
響ちゃんの推しの話を聞いたり、夏休みの予定を話したりしているうちに、列は少しずつ進んでいった。慣れないヒールのせいで踵が痛くなっていくのを感じながらも、それを無視して笑った。
途中から天気は不安定になり、あんなに威勢のよかった太陽は雲に隠れ、雨まで降ってきた。かと思えば、すぐに雨は止み、世界は何事もなかったかのように真夏へと戻っていく。
お店に入れたのは、並び始めてから1時間以上経ってからだった。店内は狭く、周りはカップルばかり。どうやら麻辣湯は、大人数で食べに行く料理ではないらしい。
響ちゃんと向かい合い、私は自分で選んだ具材の入った麻辣湯を食べ進めた。
かつて、彼女と食事を摂るだけで手が震えていた私が、こうして最後まで食べ切れていることが、何だか感慨深い。
混んでいたので、食べ終えた途端そそくさとお店を出て、かき氷を食べに行った。お店でかき氷を食べるなんて初めてで、その値段と大きさに驚く。
一つのかき氷を2人で分け合いながら食べた。ピスタチオと木苺という、味の想像がつかない組み合わせ。アンバランスに見えたそれは、意外にも美味しかった。
帰り際、響ちゃんから誕生日プレゼントを手渡された。数日前に19歳を迎えたばかりの私だったけれど、まさか覚えていてくれるなんて思ってもいなかった。
家の方向が反対の私たちは、駅で別れることになった。
「また遊ぼうね」と手を振ると、響ちゃんの姿は人混みに消えて行く。
その姿が見えなくなった瞬間、飼い主を失った子犬のように、しゅんと寂しくなってしまう自分がいた。
明日からはまた、味方のいない世界が始まる。
それでも、麻辣湯とかき氷の味、そして「またね」と言えた今日の記憶は、しばらく私の中で溶けずに残ってくれる気がした。