
大学4年生の兄は、来年から就職する。そして同時に、一人暮らしを始める。
14年間、この6人家族で生きていた私にとって、それはとても寂しい現実だった。
夏休みに、私たちは最後の家族旅行だと覚悟して京都に行った。
私の体調のこともあり、新幹線や飛行機ではなく、約8時間かけて車で京都まで旅した。妹の蘭は宝塚歌劇団が大好きなので、早朝から一人だけ新幹線に乗って宝塚で観劇をしていた。その後夕方に京都で合流することになっていた。蘭の行動力にはいつも驚かされてばかりだ。
私は、旅行の間だけは体重のことは気にせずに過ごそうと決心していた。
薬の副作用で食欲が増進していたので、朝食バイキングではパンを11個も食べた。「え、まだ食べるの?」と母に笑われたくらいだ。「旅行の間だけだから」と笑って返事をする。体型を気にせずに食事ができるなんて、何か月ぶりだろうか。
欲望のままに食べた食事が健康によかったのか、私は旅行の間、珍しく安定して、楽しく過ごすことができた。8年前にも家族旅行で京都に行ったことがあって、同じホテルに泊まった。稲荷神社や金閣寺、北野天満宮などは訪問経験があったので、今回はあまり観光せずに、ゆっくり過ごそうと決めていた。
でも2日目だけは、唯一観光地である天橋立を訪れた。生憎の雨で息を呑むような絶景は見えなかったけれど、海がとても綺麗だった。
夜、お風呂上りには、自動販売機でジュースを買って、きょうだいで乾杯した。初めてのスイートルームに浮かれている私たちの横で、父は泥酔して眠っていた。その姿を見て、顔を見合わせて笑い合う。
2泊3日の旅行は、体感的にすぐに終わった。うつの暗闇を彷徨う3日間は、あんなにも長いのに。
最後の家族旅行と称して行った京都だったけれど、私はこれが最後にならないことを祈っていた。
「あの時は最後だと思ったけど、またこんなに行くなんてね」
いつか、そう笑える日が来るといい。