
自分の中の最古の記憶を覚えていますか?
私の中で、最古の記憶は一枚の写真のようになって脳の奥に保管されている。
信じられない人がいるかもしれない。だから、信じてくれる人だけが信じてくれればいい。
私の最古の記憶は、この世に生まれて数時間後のことだ。
夏の朝に生まれた私は、ベッドの中にいた。そこから、出産後の母の姿が見える。彼女は疲れ果てていて、ベッドに横になったままアイスを食べていた。
記憶にあるのは、その一瞬だ。
私は成長するまで、てっきりその記憶は妹か弟が生まれた時のものだと思い込んでいた。でも、母に話すと、「アイスを食べてたのはこころが生まれた時だけだよ」と言われた。考えてみれば、妹が生まれたのは真冬で、弟が生まれたのも、まだ寒さの残る春の日だった。
私もにわかには信じられなくて、成長してから母に事実確認をした。でもやっぱり、その時の写真があるわけでもないし、私の記憶と母の証言は一致した。
母は同室の女性から、アイスを差し入れてもらったらしい。起き上がる体力も残っておらず、寝ながら食べていたようだった。生まれたばかりの私は、その母親の姿を見ていたのだ。
おおよそ3歳以前の幼少期の出来事を大人になってから思い出せなくなる一般的な現象を、「幼児性健忘」というらしい。けれど稀に、それが起こらない人が存在する。最古の記憶を見れば、私はそこに分類されるだろうけれど、そんな昔のことを覚えているのは、生まれたあの日だけなのだ。次の古い記憶となると、2歳にまで飛ぶ。
最古の記憶は本当に存在したものなのか。母から自分が生まれた時の話を聞いて、見たような気になっただけじゃないか。そう何度も思った。でも、明確に思い出せるのだ。母の恰好も、見ていた角度も、アイスの種類も。だから私は、自分を信じることにした。
もしかすると、私はこの世に生を享けたあの日、決してこの日を忘れまいと、色のない世界を目の奥に焼き付けたのかもしれない。
今年で20歳を迎える私は、きっと死ぬまで、あの日のことを忘れないのだろう。