
鯉にひげがあるなんて、知らなかったな。
近所のお寺の境内で、池の中を覗き込みながらそう思った。
毎日のように訪問者から餌をもらっているであろう鯉たちは丸々と太っていて、私の姿を見つけたからなのかこちらに寄って来る。ごめんね、私、餌は持ってないんだ。
12月。私は毎日40分ほどの散歩ができるまで回復した。杖を使わず、この脚で歩く。近所のお寺を目的地として、その辺りを一周する。お寺で病気の寛解と楽しく大学に通えること、私にも居場所ができることをお祈りして、池で鯉たちに会って、お墓の中を通り抜けて境内を出るのがいつものコースだった。耳にはいつもイヤホンを突っ込んでクリスマスソングを聴いていたけれど、流石にお祈りする時は縁起が悪い気がして音を消していた。
目の前で行き交う車に、飛び込もうとは思わなかった。すれ違う人々が、私を睨んでいるようにも感じられなかった。
坂の上から、沈んでいく夕日を見ながらふと思った。
もしかすると、世界は私が思っているよりもずっと、美しいのかもしれない。