
兄貴、元気ですか。
あなたのいなくなった家が、私にはまだ慣れません。
今年の4月から新社会人になった兄が、この夏、ついに家を出て一人暮らしを始めた。
「いつかは家を出るんだろうな」と思っていた。就職が決まった時から、その日が来ることはわかっていた。それでも、いざその日を迎えると、想像していた以上に寂しかった。
台風にキッチンのリフォームも重なって、私は満足に彼に別れを告げることもできなかった。
彼がいなくなった我が家は、必然的に何かが変わった。変わってしまった。
兄の部屋は弟の部屋になり、それに伴って私と妹の部屋も少し広くなった。荷物は運び出され、家具も動かされ、兄が引っ越してからほんの数日で、家の中はすっかり新しい形に落ち着いた。
あまりにも早く、日常は兄のいない生活に順応してしまった。
家族はいつも通り朝を迎え、いつも通り夜を過ごす。食卓の席が一つ空いていることにも、だんだん慣れていく。そんな当たり前の変化が、少しだけ寂しい。
でも、私はまだ慣れない。
ふと、家族の誰かが帰ってくる音がする。「あ、兄貴かな。お父さんかな」と考えてすぐに、「あ、もう兄貴は帰って来ないんだ」と気付く。
引っ越しをした。家を出て行った。
たったそれだけのことなのに、家の空気まで少し変わってしまったような気がする。
もちろん、もう会えないわけじゃない。日帰りで会いに行ける距離だし、連絡だっていつでもできる。それでも、毎日「おはよう」と言って、「おやすみ」と言える距離にはもういない。その小さな違いが、思っていたよりずっと大きかった。
私の心は隙間が空いてしまったようだった。こうして、文章を書いていないと上手く消化できないほどに。
兄貴。
新しい生活はどうですか。ちゃんとご飯は食べていますか。仕事は大変ですか。
何かあっても、何もなくてもいつでも帰って来てね。
そうだ。
今度は私が、兄の新居に遊びに行こう。
少しだけ大人になった兄に会えるのを、楽しみにしているよ。